進行性膠芽腫患者に対する増殖型遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスG47Δを用いたウイルス療法の臨床研究に関するQ&A

Q1 文部科学省「革新的ながん治療法等の開発に向けた研究の推進(がんトランスレーショナル・リサーチ事業)」について教えてください。
Q2 文部科学省「橋渡し研究支援推進プログラム」について教えてください。
Q3 この治療法は遺伝子治療なのですか?
Q4 米国で臨床試験に使用されたG207とこの臨床研究で用いるG47Δの違いを教えてください。
Q5 腫瘍溶解性ウイルスについて教えてください。
Q6 大学施設で製造された初めての臨床用ウイルス製剤とのことですが、もう少し詳しく教えてください。
Q7 この臨床試験に参加するにはどうしたらよいでしょうか?
Q8 東大病院以外でもこの治療を受けられますか?
Q9 同時に何人も治療を受けることが可能ですか?
Q10 製薬企業との共同開発ですか?
Q11 安全性の確認が主な目的とのことですが、治療効果は見ないのですか?
Q12 今回の治療で、病気が治ることが期待できますか?
Q13 治療の実際について教えてください。治療は入院して行うのですか?
Q14 G47Δが他の患者や医療従事者に感染して予期しない病気になったりしませんか?
Q15 G47Δが変異して恐ろしいウイルスになることはありませんか?
Q16 今回の治療で、何年もしてから副作用が出たりすることがありますか?

 


Q1 文部科学省「革新的ながん治療法等の開発に向けた研究の推進(がんトランスレーショナル・リサーチ事業)」について教えてください。
A1  がん免疫療法や分子標的療法等に係る基礎研究の優れた成果を次世代の革新的な診断・治療法の開発につなげるためのトランスレーショナル・リサーチを推進し、がんの新薬等の開発につながる成果を創出することを目的に、文部科学省が平成16年から平成20年度まで行った事業です。実用化が有望なプロジェクトを対象にした事業で、本臨床開発を含め11課題が採択されて支援を受けました。
【参照URL】 Website 文部科学省「革新的ながん治療法等の開発に向けた研究の推進」

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Q2 文部科学省「橋渡し研究支援推進プログラム」について教えてください。
A2  医療としての実用化が見込まれる有望な基礎研究の成果を開発している研究機関を対象に、トランスレーショナルリサーチの基盤を整備し、トランスレーショナルリサーチの支援を行う拠点を形成することを目的に、文部科学省が平成19年度から行っているプログラムです。実施機関として東京大学や先端医療振興財団など7機関が選ばれています。
【参照URL】 Website文部科学省「橋渡し研究支援推進プログラム」

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Q3 この治療法は遺伝子治療なのですか?
A3  文部科学省・厚生労働省の「遺伝子治療臨床研究に関する指針」(平成14年3月27日)(平成16年12月28日全部改正)(平成20年12月1日一部改正)によりますと、遺伝子治療とは、「疾病の治療を目的として遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること」と定義されています。つまり、遺伝子の働きによって治療を行う方法です。遺伝子を細胞や体内に運ぶ手段としてウイルスを用いることがあります。
 ウイルス療法は、ウイルスをがん細胞に感染させて、ウイルス自体が直接がん細胞を破壊します。がん細胞は、遺伝子の働きではなく、ウイルスがそこで増える過程で死滅しますので、ウイルス療法は厳密には遺伝子治療とは区別されます。
欧米では、どのようなウイルスを用いたウイルス療法でも、臨床試験を行う場合は、遺伝子治療と同じように規制当局の審査を受けます。日本では、ウイルス療法の臨床研究に関する指針がまだありませんが、本臨床研究の実施計画書は、「遺伝子治療臨床研究に関する指針」に則って厚生労働省の審査を受けています。国の承認を受けて行うウイルス療法としては、国内では初めてです。
【参照URL】 遺伝子治療臨床研究に関する指針

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Q4 米国で臨床試験に使用されたG207とこの臨床研究で用いるG47Δの違いを教えてください。
A4  G207は、世界でももっとも早く臨床に応用された増殖型遺伝子組換えウイルスの1つで、第二世代の遺伝子組換え単純ヘルペスウイルス1型です。遺伝子操作によって、γ34.5とICP6という二つのウイルス遺伝子が働かないようしてあります。 
 γ34.5遺伝子は、単純ヘルペスウイルス1型(ヘルペスウイルス)が病気を起こすために必要な遺伝子で、この遺伝子がないと病気を起こさなくなります。γ34.5遺伝子はまた、細胞がウイルス感染を受けると通常起こす反応、すなわち細胞内での蛋白合成を停止して自滅する反応を阻止する働きを持っています。従って、γ34.5遺伝子がないと、ヘルペスウイルスは蛋白合成ができないため増えることができません。しかし、がん細胞は、ウイルス感染に反応して自滅する仕組みが壊れているため、ヘルペスウイルスはγ34.5遺伝子がなくても、がん細胞では増えることができます。
 ICP6遺伝子は、ヘルペスウイルスのDNA合成に必要なリボヌクレオチド還元酵素を作る遺伝子です。ICP6遺伝子が働かないと、ヘルペスウイルスは細胞に感染してもDNA合成ができないため、増えることができません。しかし、がん細胞にはICP6遺伝子の代わりとなる酵素が豊富にあるため、ICP6遺伝子が働かなくてもヘルペスウイルスはがん細胞では増えることができます。
 G207は、安全性を重視して臨床応用のために開発された遺伝子組換えヘルペスウイルスです。約10年前に、米国の2大学で、再発した悪性神経膠腫(グリオーマ)を対象に臨床試験が行われ、21人の患者の脳腫瘍内に投与された結果、ヒトでの安全性が確認されました。
 G47Δは、G207に改良を加え、その安全性を確保しながら、さらに抗がん作用を高めた第三世代の遺伝子組換えヘルペスウイルスです。遺伝子操作によって、γ34.5とICP6に加え、α47というという三つのウイルス遺伝子が働かないようにしてあります。
 α47遺伝子は、ヘルペスウイルスが感染した細胞の表面の組織適合性抗原クラス1の量を減らす作用があります。組織適合性抗原クラス1は、がん抗原やウイルス蛋白を免疫細胞に提示する役割を果たします。従って、α47遺伝子がないと、組織適合性抗原クラス1の量が減らないので、がん細胞では、抗がん免疫を担う免疫細胞をより強く刺激します。また、α47遺伝子を取るとその隣りのウイルス遺伝子(US11)にも影響を与えて、がん細胞でのみヘルペスウイルスがよく増えるようになります。
 基礎実験では、G47ΔはG207に比べ、およそ10倍の抗がん効果を発揮します。また、G47ΔはG207に比べ、濃度が約10倍高いウイルス製剤を作ることができます。動物実験による安全性試験では、G47ΔはG207と少なくとも同等の安全性が確認されています。
 G47Δを用いた臨床試験は今回が世界で初めてです。

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Q5 腫瘍溶解性ウイルスについて教えてください。
A5  腫瘍溶解性ウイルスは、oncolytic virusの訳で、ウイルス療法に用いるがん治療用ウイルスを指します。ウイルス療法とは、ウイルスをがん細胞に感染させ、ウイルスの直接的な殺細胞作用によりがんの治癒を図る治療法です。がん細胞は元来、正常細胞に比べウイルス感染に弱く、がん細胞にウイルスが感染するとウイルスがよく増えることは昔からよく知られていました。欧米では1950年代〜1960年代にかけて、さまざまな自然弱毒型のウイルスを用いてウイルス療法が試されましたが、ウイルスの作用を制御することができなかったために治療法として確立しませんでした。近年、遺伝子組換え技術が発達して初めて、がんだけで増殖するウイルスを人工的に造ることが可能になり、再びウイルス療法の開発が盛んになりました。現在、世界でさまざまなウイルスが腫瘍溶解性ウイルスとして開発されていますが、遺伝子組換え技術を駆使して意図的に安全性と抗がん作用の双方を高めた遺伝子組換えウイルスを用いることが治療薬としては重要だと考えています。世界で腫瘍溶解性ウイルスとして開発されている遺伝子組換えウイルスには、単純ヘルペスウイルス1型のほか、アデノウイルス、麻疹ウイルス、ワクシニアウイルスなどがあります。世界では、脳腫瘍以外にも、さまざまながんを対象に臨床試験が進められています。
 単純ヘルペスウイルス1型は、さまざまな腫瘍溶解性ウイルスの中でも、特にがん治療に有利な特長を多く有しています。
  • がん治療用の遺伝子組換えウイルスとして最も早くから開発された。
  • ほぼあらゆる種類のヒト細胞に感染できる。
  • がん細胞を殺す力が強い。
  • 抗ウイルス薬が存在するので、治療を中断することができる。
  • いろいろな治療遺伝子をウイルスに組み込むこともできる。
  • ウイルスそのものに対する免疫を引き起こす作用は比較的小さい。
  • がんに対する免疫が生じて、抗がん効果がさらに高まる。
  • 免疫を介して、離れた部位のがんにも作用する可能性がある。
  • ウイルスに対する抗体を持っていても、がん治療の効果が弱くならない。
【参照URL】 Website国立医薬品食品衛生研究所―日本で開発中の腫瘍溶解性ウイルスの例

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Q6 大学施設で製造された初めての臨床用ウイルス製剤とのことですが、もう少し詳しく教えてください。
A6  「遺伝子治療臨床研究に関する指針」は、臨床用の製剤を「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年厚生省令第28号)第17条第1項において求められる水準に達している施設において製造」することを義務づけています。製造の基準をGMP(Good Manufacturing Practice)と呼び、製造物の品質の確保のために必要な構造設備を備え、適切な製造管理および品質管理が行われることが必要です。具体的には、空調管理(温湿度、室圧、浮遊微粒子数)、清潔度管理(清掃と無菌性維持)が適切に行われている施設を用い、使用する機器の性能が正常であることが保証され、標準作業手順書に従って作業を行い、かつその記録および手順が適切に文書として管理されていることなどが要求されます。設備、資金、マンパワー、そして多大な労力を要するため、大学の施設で実施するのは容易ではありません。
 本臨床研究で用いるG47Δ製剤は、東京大学医科学研究所治療ベクター開発室において、我々研究チームによって独自に製造されました。東京大学医科学研究所治療ベクター開発室はGMP基準に準拠しています。製造に使用した材料も医薬品規格または品質の保証されたGMP規格のものを使用しています。ウイルス生産に用いた細胞とウイルス製剤は、海外の外部機関に委託し、国際基準に則って多項目にわたる徹底的な品質試験を実施して合格しています。臨床製剤をヒトに用いる前に細胞や動物を用いて安全性試験を実施する際の管理基準をGLP(Good Laboratory Practice)と呼び、施設や機器の性能が保証され、手順や記録が文書化して管理されていることが要求されます。トランスレーショナルリサーチにおけるGMPとGLPについては、以下のサイトをご参照下さい。G47Δは、増殖型遺伝子組換えウイルスであるため、製造や実験での扱いに際し、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)の第二種使用規程について文部科学大臣確認を得ています(質問13参照)。
【参照URL】 Website東京大学医学部附属病院トランスレーショナルリサーチセンター GMP/GLP/GCPとの関わり

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Q7 この臨床試験に参加するにはどうしたらよいでしょうか?
A7  この臨床試験は、手術と放射線治療を行っても再発もしくは進行した膠芽腫(グリオブラストーマ)の患者のみが対象です。今回は、他の脳腫瘍やがんは対象になりません。G47Δを臨床に用いるのはこの臨床試験が世界で初めてであり、G47Δの安全性を確かめることが主な目的となります。動物実験での安全性は確認されていますが、ヒトでの安全性や効果は保証されていません。臨床試験に参加するには、実施計画書の適格規準にあてはまっており、除外規準からはずれていることが必要です。主な規準は以下の通りです。
  • 手術をすでに受け、病理診断で膠芽腫と診断されていること。
  • 放射線治療後の腫瘍の再発あるいは放射線治療中の腫瘍増大であること。
  • 再発(進行)した腫瘍はMRIで造影される1cm以上の病変で、1つだけであること。
  • 介助なしに生活できる状態であること。
  • 18歳以上であること。
  • 他の癌を合併または過去に経験していないこと。
  • 重篤な合併疾患や検査値異常のないこと。
  • 1ヶ月以内に他の臨床試験薬の投与を受けていないこと。
 この臨床試験への参加問い合わせは、全て東京大学医学部附属病院トランスレーショナルリサーチセンターのホームページ<http://trac.umin.jp/hospital/ct.html>を経由してください。
 患者自身が問い合わせる場合は、このページの問い合わせフォームの設問に答え、名前や連絡先を記入した上で、送信するボタンを押して下さい。お送り頂いた内容は臨床試験担当医師に転送されます。内容を確認しましたのち、担当者よりご連絡致します。
 主治医から問い合わせる場合も、同様に問い合わせフォームの設問に患者の状況について答え、主治医の名前と連絡先を記入し、備考欄に主治医からの問い合わせである旨を記入してから送信するボタンを押して下さい。臨床試験担当医師から、主治医にご連絡致します。また、医師向けの臨床研究概要と適格規準と除外規準の詳細をホームページに掲載しましたのでご参照ください。

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Q8 東大病院以外でもこの治療を受けられますか?
A8  今回の臨床研究は東大病院のみで実施します。現時点では他の病院で受けることができません。

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Q9 同時に何人も治療を受けることが可能ですか?
A9  この臨床試験は、G47Δの安全性を確かめることが主な目的であるため、一人の患者のG47Δ投与が終了してから次の患者のG47Δ投与を開始するまで、実施計画書に定めた間隔をあけることが規定されています。同時に2人以上が並行して治療を受けることはできません。また、安全性を確認しながら投与量を段階的に上げていきますので、大きな副作用が見られない場合でも、最初の3人、次の3人、7人目以降の患者が投与されるG47Δの量が異なります。投与量の変更は、独立データモニタリング委員会の評価を受けて実施します。従って、この臨床試験に参加する条件に合っていても、すぐに参加できない場合があります。大きな副作用が見られない場合、合計21名の治療を予定しています。

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Q10 製薬企業との共同開発ですか?
A10  G47Δの臨床開発は、文部科学省「革新的ながん治療法等の開発に向けた研究の推進(がんトランスレーショナル・リサーチ事業)」(平成16年〜20年度)のプロジェクトとして進められ、文部科学省「橋渡し研究支援推進プログラム」(平成19年度〜)に支援されて臨床研究が実施されます。いわゆる国の研究費による開発であり、これまで製薬企業は全く関与していません。しかしながら、G47Δが最終的に医薬品となって国民が必要な時に誰でも使えるようになるには、企業の参画が必要であり、今後なるべく早期の企業参画が待ち望まれます。

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Q11 安全性の確認が主な目的とのことですが、治療効果は見ないのですか?
A11  今回の臨床試験は、世界で初めての臨床応用であることもあって、安全性を確かめることが主な目的の試験デザインとなっています。治療効果の評価は主な目的ではありませんが、神経症状やMRI画像の変化を調べて、安全性と同時に治療効果も見ていきます。

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Q12 今回の治療で、病気が治ることが期待できますか?
A12  新しい治療薬の開発は、一般に、安全性を確かめるための臨床試験を行い、安全な投与量の範囲を確認してから、次に治療効果を調べる臨床試験を行います。治療効果がありそうだと判れば、さらに大勢の患者さんを対象に臨床試験を行います。今回の臨床研究は、初めてヒトにG47Δを用いるファースト・イン・マンの臨床試験であり、治療薬開発の最初の段階です。一人一人安全性を確認しながら、投与量も段階的に上げていきます。ヒトでは安全性も治療効果も保証されません。本臨床試験への参加は、新しい治療法の開発に役立ちますが、病気は良くならないかもしれません。

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Q13 治療の実際について教えてください。治療は入院して行うのですか?
A13  治療は入院して行います。G47Δは脳腫瘍内に直接投与しますが、定位脳手術という手術を必要とします。この手術は、例外を除いて局所麻酔で行える手術です。G47Δは増殖型遺伝子組換えウイルスであるため、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)の第一種使用規程に従って、投与後3日間個室での管理を必要とします。無菌室のような特殊な個室ではありませんし、この3日の間でも検査などのために個室の外にでることができます(マスク着用)。大きな副作用がなければ、2週間以内に2回めの投与(手術)を行います。3-4週間の入院を要する見込みです。
 なお、カルタヘナ法は、遺伝子組換え生物が国境を越えたり環境に拡散したりして自然環境(生物の多様性)に影響を与えることを防止するための国際合意(カルタヘナ議定書)に基づいて作られた法律で、日本は医薬品開発や遺伝子組換えウイルスも法適応の対象としています。臨床試験のように開放した場所で扱う場合を第一種使用、実験のように閉鎖した場所で扱う場合を第二種使用と分け、いずれも主務大臣の承認を受けて使用形態に応じた措置を実施する義務が課せられます。本臨床研究は、第一種使用規程に関し、厚生労働大臣と環境大臣の承認を受けています。
【参照URL】 Website日本バイオセイフティクリアリングハウス(カルタヘナ法関連)

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Q14 G47Δが他の患者や医療従事者に感染して予期しない病気になったりしませんか?
A14  単純ヘルペスウイルス1型は、口唇ヘルペスの原因となるウイルスで、成人の約7割はすでに抗体を持っています。口唇ヘルペスに罹っているからといって、隔離の対象になるような感染症ではありません。単純ヘルペスウイルス1型は、空気感染や飛沫感染はせず、粘膜等への直接接触によってのみ感染します。G47Δは、単純ヘルペスウイルス1型ですので、これらの性質を全てそのまま持っています。その上、G47Δはがん細胞以外では増えることができませんので、感染した部位ががんでない限り感染が広がらないと考えられます。脳腫瘍内に投与したG47Δは唾液や尿などから排出されないと推察されることもあわせ、治療を受けた患者から他の患者や医療従事者に感染して予期しない病気になったりする可能性はないと考えます。単純ヘルペスウイルス1型はまた、環境中では極めて弱いウイルスで、紫外線照射や高温蒸気滅菌はもちろんのこと、消毒用アルコールをはじめとする通常の消毒薬で速やかに死滅(正確には不活化)しますし、常温の環境中でも短時間で死滅します。

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Q15 G47Δが変異して恐ろしいウイルスになることはありませんか?
A15  単純ヘルペスウイルス1型は、遺伝子情報が1本の長い二重鎖DNAに乗っており(ゲノム)、人工的変異であれ自然変異であれ、ゲノムに変異が加わると必ず弱毒化します。G47Δは、3つのウイルス遺伝子(ゲノム上は4カ所)に人工的変異があるため、正常細胞に対してはすでに著しく弱毒化しており、さらに自然変異が加わってウイルスが強くなることはありえません。G47Δが強くなるとすれば、変異箇所が正常に戻る場合ですが、4カ所の人工的変異が全て自然に元に戻ることは理論的に不可能であり、1カ所だけが元に戻る確率さえも極めて低いと考えられます。実際、G47Δの感染を繰り返してウイルスゲノムの安定性を調査したところ、極めて安定していることが示されています。自然の単純ヘルペスウイルス1型が元来それほど恐ろしいウイルスではないことも考え合わせると、G47Δが恐ろしいウイルスに変貌することはありません。 

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Q16 今回の治療で、何年もしてから副作用が出たりすることがありますか?
A16  膠芽腫が治癒した場合には、何年もしてから起こる遅発性の副作用を念頭におく必要があります。単純ヘルペスウイルス1型は、元来神経細胞に潜んでヒトと共存する性質を持っており、慢性的な炎症を起こしたり、ヒトの細胞の染色体に組み込まれて癌を起こしたりすることは知られていません。G47Δが神経細胞に潜む性質を保っているかどうかは明らかでありませんが、がん細胞以外では増えることができないので、仮に神経細胞に潜んだとしても、何年もしてから増えだして口唇ヘルペスを起こしたり脳炎を起こしたりする可能性はないと考えられます。G47Δは、動物実験で、がん細胞を破壊する過程で抗がん免疫を引き起こすことが知られています。G47Δでウイルス療法を行うと、同時にがんワクチンの効果も生じることになります。がんワクチン療法で知られる副作用に、正常細胞に対する免疫が生じて特定の細胞が破壊されることがあります。例えば、悪性黒色腫に対するがんワクチン療法を行うと、正常のメラニン細胞が破壊されて皮膚が白くなることがあります。G47Δでも、同じように、自己の正常細胞に対する免疫が生じてくる可能性がないとはいえません。このような未知の副作用や長い期間が過ぎてからの副作用は、多くの場合、臨床試験や実際の臨床使用を通じて初めて明らかになります。

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